『あたしたち、海へ』は、井上荒野が、実際にあった事件、十代の女子が二人で自殺してしまったという記事を読み、彼女たちの心情を考えるうちにかこうと決めた小説だという。
「あたしたち、最低だね」
有夢(ゆむ)は俯いたまま言った。
「うん、最低」
と瑤子は同意した。
「ペルー行くしかないよね」
顔を上げて、有夢は言った。
「うん、行こう」
と瑤子は頷いた。
女子校に通う中二のふたりは親友、海へのいじめに加担せざるを得なかった。首謀者ルエカが恐ろしかった。けれど、まさか転校した先まで追いかけて、いやがらせをするなんて。
「ペルー」は、有夢、瑤子、海が大好きだったリンド・リンディの最新アルバムにして最後のアルバムだ。発売ひと月後に脳腫瘍だったリンディは死んだ。
そして「ペルー」は、有夢と瑤子のあいだの隠語でもあった。”死”を意味する。
ふたりにはもう、「ペルーへ行く」ことしか、逃げ道が見えなくなっていた。
小説は、大人の視点からも描かれている。
仕事を失い妻に養われ恋人をはけ口にする瑤子の父。
自分の記憶を改ざんすることでしかいじめに立ち向かえない30歳の女性教師。
高齢者マンションでのいじめを垣間見る海の母。
そして、いじめの首謀者ルエカの視点からも。
そんな場所は捨ててしまえばいいと、大人になったわたしには考えられるが、渦中にいるときにはままならないことがたくさんあるということも知っている。
やすやすと抜け出すことなど、できはしないのだ。
それは大人になってもそうで、職場で、家庭で、近所づきあいやサークル、ボランティアにだって危うい人間関係は存在する。
しかし子供たちには、それ以上に重い足枷があるのだろう。
有夢と瑤子は、ペルーへ、ペルーへと近づいていく。
表紙絵の3人は同じように見えますが、有夢はぽっちゃり、瑤子はおちび、海はやせっぽちとの描写がありました。リンド・リンディは架空の歌手だそうです。
☆シミルボンサイトで連載中。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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