「犯罪日記」とタイトルにあるだけあって、サブタイトルも物騒だ。
「万引」「偽札」「闇金」「詐欺」「誘拐」「殺人」と6章それぞれに、一橋(ひとつばし)桐子が関わる犯罪名が置かれている。
しかし桐子は、裏の世界を渡って来た女ボスなどではない。いたって善良な76歳のおばあさんだ。
それがなぜ犯罪に手を染めようなどと思ったのか。
刑務所に入れば、食事の心配もなく、寝たきりになれば介護までしてくれると聞き、ひとりで生きていくために懲役10年以上の刑を受けられる犯罪をと模索し始めたというわけだ。
物語は、ともに暮らしていた親友トモが亡くなるところからスタートする。
桐子は、親の介護のために婚期を逃し生涯独り身。介護離職したこともあり清掃の仕事と年金でやりくりする76歳だ。
ふたりだからお金をやりくりして暮らせていた一軒家を、出なくてはならない。そんなときコソ泥に少ない持ち金を盗られてしまう。
食パン一斤89円。イチゴ大福一個120円。食パンなら1週間食べられるけどイチゴ大福は一瞬でなくなってしまう。だけど、トモにお供えしたい。
いくらお金がないからと言って、そこまで堕ちていない。堕ちるわけにはいかない。捕まったら牢屋に入るかもしれないもの。
牢屋に入る?
刑務所に入る、それは自分がむしろ望んでいたことではないのか。
しかし桐子は万引くらいでは刑務所に入ることはできないと知り、考える。
アドバイスしてくれたのは、清掃しているビルで煙草を吸っていた若い会社員風の男、久遠(くどお)だ。
「前にネットで見たことあります。実は偽札作りは重罪だって」
しかしコンビニでお札をコピーしようとして、バイトの大学生雪菜に助けられる。
その後、パチンコ屋の清掃で闇金業者と出会い、詐欺のワークショップに駆り出され……。
まじめで心優しい桐子さん。果たして刑務所に入ることができるのか。
物語は、誘拐、殺人へと進んでいく。
おもしろかったのは、桐子の人柄に集まってくる人たちだ。久遠、雪菜、闇金の秋葉、大家の門野。
みな桐子の誠実さに、思いやりに、生きる姿勢に共感し、いつのまにか彼女を大切に思い始めているのだった。
『ランチ酒』を読んで、手にとりました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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