恋は、そして愛は、ときに人を狂わせる。
最初から、季莉はずっと本気だった。ただ、ぷぅさんが勝手に「俺らはセフレ」だと言ったから、つい頷いてしまっただけのことだ。離れるよりマシだと思ったし、最初はそのつもりでも、やがて変わっていくと思ったから。
本気の女と、セフレだという男。「くらわんか」
たがいの温度差を埋められることがなければ、狂うしかないのかもしれない。
乃南アサ短編傑作選シリーズ第1弾『最後の花束』は、「女性の狂気」をテーマに置いた11編のサスペンスが収められている。
親友の婚約者を欲しがった女。「祝辞」
他人の留守録を聞いたがために起こる悲劇。「留守番電話」
髪の美しさにこだわり過ぎた女は。「髪」
初恋だった女に魅かれていく夫に、健気に振る舞う妻の気持ちは炎のように揺れ。「おし津提灯」
「薬缶」は、久しぶりに会った友人、妙子の言葉から始まる。
「殺そうなんて考えたことはないけれど、死んでくれたらなあって思うわ」
うまくいってるけど、なんとなくつまらないだけ。だから、そんなことを思ってしまうという妙子の言葉は、瑞恵のなかにくすぶっていたものを刺激した。
――死んでくれたらなんて思ったことはない。私はいつだって、殺したいと思ってきたんだわ。
持ち上げた薬缶の下には、下着姿でだらだらと寝転がった夫の頭が見える。
もっともヘビーだったのは、美しいタイトルの表題作「最後の花束」だ。
ウェディングドレスを着るのが夢、という希は、ジューンブライドになることが決まっている。しかし、花屋に勤める彼女のもとへ、不気味な花束が届き、「素敵な貴男へ」と記されたグロテスクなプレゼントが立て続けに届くようになった。
妬み、嫉み、恨み。
愛していたからこそ、好きだったからこそ、女たちは狂っていくのだった。
夫婦のなかに潜む狂気は、「おし津提灯」「薬缶」の2作だ。ほかは愛人だったり、片思いだったりだが、どれもたがいの温度差が、気持ちのすれ違いが、憎しみさえを生む。矛先は、愛する人へ向かうのか、それとも相手の女に向かうのか。
表題作は、表紙絵の雰囲気とはまったく違っていました。
乃南アサ短編傑作選シリーズは、今のところ4冊です。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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