「今夜は、すき焼きにしよう」という日がある。
なに、特別な日、というわけではない。
「今夜は、鍋にしよう」のノリである。
牛肉を買わないのなら、特別な日じゃなくてもすき焼きデーにできるのである。
「豚だよね」
わたしの問いに、夫が答えた。
「鶏すきにしようか」
「あ、たまにはいいね」
けれど、どこか不安になり「豚は、入れないの?」と問うと「入れる」との返事。
彼のいう鶏すきとは、鶏と豚のすき焼きのことであった。
薄切りにした鶏もも肉に味がしみるよう、いつもより濃いめに味つけしたすき焼きは、ビールにもご飯にも合う逸品となった。
すき焼きといえば、今月結婚した上の娘の祝いの席ですき焼きが出た。
豪快にみなですき焼きを囲むというのではなく、前菜から彩り美しい和食が並べられ、いくつか楽しんだあとのメインディッシュがすき焼きで、ひとりずつの小鍋に火をつけてもらって、煮えたら食べるタイプのもの。上品な味つけとやわらかい和牛は格別だった。
「生卵は、だいじょうぶですか?」
イギリス人の彼や彼のお母さんに訊くと、まったく抵抗はない様子。
「卵を溶いて、すき焼きをつけて食べます」
夫が、英語で教える。
「でも、彼女は卵を溶かないんですよ」
わたしのことだ。
「こだわり」とか「彼女流」とか言っていたのだろうか。みなで笑い、鍋を囲んでいるかのようにすき焼きをつついた。
イギリスにも、鍋料理はあるのだろうか。
美味しく煮えた鶏と豚のすき焼きを食べながら、娘の新しい暮らしに幸あれと静かに思った。
鶏と豚を炒めてから、砂糖、醤油、みりん、酒で味つけします。神戸出身の夫担当。関西風です。
すき焼きにお麩を淹れるのも、結婚してから初めて知りました。
道の駅はくしゅうで買った北杜市産の春菊は、サラダにしてもいいくらい新鮮。
卵を溶かず、最初に肉を黄身だけにつけて食べるのが、わたし流。
娘の結婚のお祝いで食べたすき焼きは、ひとり鍋でそれぞれの席に用意されていました。牛肉のすき焼きもたまには食べたくなるよね。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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