連休の最終日に、安曇野をドライブした。
用事とも言える目的は他にあり、もともと予定はしていたのだが、その朝、新聞を読んでいた夫が、突然言った。
「福寿草って、どんな花?」
「黄色くて、うーん大きさは、スイトピーくらいかな」
イメージはできても、それを知らない人に説明するのは難しい。
「見に行こうか?」
「福寿草を?」
「うん。安曇野方面に、群生してるところがあるらしいんだ」
その日の朝日新聞3月20日朝刊の天声人語に、載っていた。
平成の大合併で松本市に入り、名がなくなった四賀村だが、25年前から始めた「福寿草まつり」でその名を残している、というような内容だった。
高速道路を豊科で降り、まだ上るの? どこまでいくの? と言いながら20分ほど走ると、ようやくそこに着いた。
「どれが、福寿草?」と、夫。
「あれだよ。タンポポみたいに、そこいらじゅうに咲いてるやつ」
駐車場から遠めに見た福寿草の群生地は、お世辞にもいちめんの花畑とは言い難く、地道に地味に咲いていますと花自らが語っているようだった。
それでも、よく晴れた春分の日の散策は気持ちよかった。のんびりと写真を撮りながら福寿草を愛でて歩く。福寿草は急な傾斜地に咲いていて、手作りの木材チップを敷いた遊歩道が伸びていた。
「登ろうか」と言うのは、いつも夫だ。
5歳くらいの男の子がはしゃいで駆け下りてくる坂道を、ゆっくりと登った。登って上から見下ろして、驚いた。
「あっ! 上から見る方がきれい」と、わたし。
「だろ。花は、上向いて咲いてるんだから」と、夫。
山登りというほどでは全然ないけれど、登って観た風景が、思いのほかきれいだったりするとうれしくなる。山に登る人の気持ちが少しわかった気がした。
天声人語には、こうかかれていた。
「北向きの斜面で長く雪の下にあった株は茎が太く、濃い色の花が咲く。あまり早くに日を浴びて咲き出した株はひょろひょろです。花の色も濃くなりません」まつりの主催メンバーのひとり金井保志さん(70)は話す。幼いうちから甘やかして日の当たる場にばかり置くと、たくましく育たない。人にも通じる教えだろう。
いやいや。と思った。この北側の斜面に福寿草を植えようと考えた人たちこそ、茎が太く色が濃い。発想の転換は、新しいアイディアはきっと、あきらめずに考え抜いた人のところに降ってくるものなのだろう。
「ハッピー(福)&セレブレーション(寿)か」
夫が、つぶやいた。
目にまぶしいレモンイエロー。福寿草は、旧暦の正月を迎えるころに咲いたことから「元旦草」とも呼ばれ、縁起の良い花としてお正月に飾られたそうです。
こんなふうに傾斜に、ぽつりぽつりと咲いています。
みんな、上を向いて咲くんですよね。
仲よく太陽に向かって、伸びています。
蕾もまた可愛い。夕暮れには花を閉じ、2~3週間咲き続けるそうです。
大きな木だなあ。のびのび~とした気分になりました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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