今年初めての買い物は、図らずも珈琲用のマグカップとなった。
初詣の際立ち寄った友人のお店「日と月」で見つけた陶芸作家の作品で、温かみのある白地に鉄色の木と人のような影が描かれている。
「あ、イタリアカサマツ」
思わず、つぶやいた。
木の根もと、人の足もとには、淡いターコイズが広がっている。テヴェレ川だ。
そんなわけないか。とも思う。
思いながら、わたしにとっては、これはイタリアカサマツで、テヴェレ川でいいのだとも思う。
向田邦子の『男どき女どき』に、「反芻旅行」がある。
とても印象に残っていた、母親についてかかれたエッセイだ。
向田邦子は、夫の七回忌を終えた母親に香港旅行をプレゼントした。母は、その後何年経っても「香港」関連のテレビ番組を目を輝かせて観ていたという。
「香港はもういいじゃないの、自分で行ったんだから。ほかの、行ったことのない国を見たほうがいいと思うけど」
向田邦子は言ったが、母は「本当にそうだねえ」と言いつつも、やはり香港ばかり観るのだった。
しかし、あるとき、年上の男性に言われる。
「反芻が、一番たのしいと思うがね」
旅も恋も、そのときもたのしいが、反芻はもっとたのしいのである。
わたしもたぶん、反芻しているのだ。
うーん、イタリアカサマツだ。ひと目見て思いました。
こっち側を見て、思ったのかも。
内側を見ると、雲のように見えますね。
足もとの淡いターコイズが、テヴェレ川のよう。そこは、トラステヴェレ? それとも。
逆さにすると、また違った絵に見えてきます。不思議絵。
初めて注いだ珈琲は、ホンジュラスの浅煎り。酸味が爽やかです。
向田邦子『男どき女どき』。
男時(おどき)=何をやってもうまくいく隆運発展の時。
女時(めどき)=何をやってもうまくいかない衰運停滞の時。
反芻か・・・
恋はそう思わないかもしれないけれど、旅は反芻が良いというのはよくわかります。
買って帰った物や思い出で、ずっとずっと反芻できますよね。
さえさんが買ったコーヒーカップのように、
物を旅の景色に照らし合わせるのも、思い出が膨らんで、使う度に色々思い出させてくれますね。
ってか、すごくカップが素敵なんですけど~~
淡いターコイズはほんとに川のよう・・・
さえさんらしいカップですね。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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