運転中、ふと視線を感じた。
フロントガラスの向こう、けろじが喉を膨らませ、こちらを見ている。ワイパーに前足をかけ、時速60㎞の風に吹かれ、ときどき首を動かす。
「乗って来ちゃったの?」
昨日は、日帰り東京。末娘の芝居を観に出かけるところだった。車は駅近くの駐車場に夜まで停めておくことになる。
日中まだまだ暑い。フロントガラスの上では過ごせまい。幸い駐車場は川沿いだ。餌には困らないだろう。車に轢かれる前にと川の方へ逃がすことにした。
手のなかで突っ張る足の力は強く、威勢がいい。川に着く前にするりと指の隙間から逃げ出した。大きな弧を描いて、アスファルトの道を跳ねていく。
「元気で暮らせよ」
大海までは遠いだろうが、新しい世界を観るであろうけろじにエールを送り、駅に向かった。
特急あずさに乗り、大勢のなかのひとりとして東京に向かう。大月からは多くの外国人も乗り込んできた。いまや人間は、大海だって越えられる。
「それでもみんな、いつかは家に帰るんだよな」
そう思ったとき、不意に肩を揺さぶられたようにハッとする。
「遠くへいきたい」
沸き上がるように、強く強く思った。遠く、ずっとずっと遠くへ。
「遠くへ」
十代の頃、常に抱いていた気持ちを、今立っている場所が不安でたまらなかったことを、とても久しぶりに思い出し、呆然と立ち尽くす。
東京の小さなスタジオで、娘は遠くを見つめ、息を大きく吸いよく通る声で、生き生きと自分の役を演じていた。
ちっちゃい。ワイパー動かさなくてよかった。
洗車してないのが、バレバレ(笑)
強く生きていくんだぞー!
さえさん、北海道への旅行は地震直前で、ほんとに良かったですね。
被災されているニュースを見たら、手放しで喜べるわけではないけれど、
行っている最中だと思うと・・・ほんと怖いです。
さえさん、けろじを手で摑まえる事が出来るんですね~
爬虫類とか虫が苦手な私は、そういう場面に遭遇してしまったら、物を使って追いやる事しか出来ません。
「遠くへ行きたい」は、私も不意にやってくる「何処でもいいから行きたい」や、
「綺麗な景色を見たい」によく似ているものでしょうか?
ちょっと疲れている時なんかに不意に思う事があります。
さえさん、大丈夫~!?
ユミさん
ありがとうございます。
北海道のニュースはほんとうにショックでした。ほんと、被災された方たちのことを思ったら、こっちでショックもなにもないんだけど、とも思いますよね。
けろじはね、いつもさわりたいくらい可愛いです(笑)でも、がまんしています。
今いる場所が、どうしようもなく不安になることがあるんです。
疲れてるのかな? 北海道のことがショックだったってこともあるかも知れません。
だいじょうぶです。娘のお芝居観て、パワーもらってきました♡
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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