「あ、竜巻!」
と言っても、小さな小さなものだ。
庭仕事をしていて、枯れ葉を集めた箕(み)のなかで、一瞬枯れ葉がくるくると渦を描いた。箕のコの字型になった囲いが、風の舞を誘ったのだろう。
まるでダンスを踊っているかのようで、しばし見入ってしまう。
しかし水や火がそうであるように、風も小さなもの、人の手に負えるものは、歓迎されたり便利に使われたりもするが、大きな災害を引き起こすものもある。
竜巻もそのひとつだ。
小さな竜巻を見て、東野圭吾の『ラプラスの魔女』を思い出した。
「おかあさん、しっかりして。今、お医者さんを呼ぶから」
円華の呼びかけがきこえているのかどうかはわからなかった。だが美奈は微笑んだ。それから唇が少し動いた。
「えっ、何?」円華は母の口もとに耳を近づけた。
よかった――美奈はそう呟いたようだった。その後、ふたたび目を閉じた。
プロローグで、主人公円華は、母親の美奈とともに竜巻に遭う。
美奈は自分の危険をかえりみず娘を安全な場所へと誘導した直後、吹き飛ばされてしまった。そして娘のぶじに安堵して死んでいく。その経験が、のちに円華の人生を大きく変えることになる。
庭仕事の手を動かしながらも、『ラプラスの魔女』のいくつかのシーンを思い浮かべた。そしてそこから派生し枝分かれしていく様々な思いが、くるくると小さな竜巻に舞う枯れ葉のように舞っては飛んでいく。
こういう日常のなかのワンシーンから、読んだ本や登場人物や会話なんかをふと思い出すのも、読書の楽しみのひとつ。至福のときとも言える。
庭仕事を終え、ふたたび『ラプラスの魔女』を探し、開いてみた。
きのうは芝桜を植えました。駐車場脇に少しずつ植え足しています。
雪柳の白とのコントラストを楽しもうとピンクを。がんばって根づいてね。
これが「箕」です。ご存じですよね。わたしは明野に越してくるまで、使ったことがありませんでした。
けろじが、今年お初のお目見え。おはよう! 眠そうだね。
元気に飛び跳ねて、石段を上り隣りの林へ行ってしまいました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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