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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『素敵な日本人』

出先で急に空いた時間に読むものがなく、コンビニのブックコーナーを物色することがある。

「読むものがなくなったら、どうするの?」

末娘が帰省してくる際、そう言って何冊もの本を鞄に詰めこんでいたのを思い出すが、わたしはそこまで用意周到な読書人ではない。そして、用意周到ではないからこそ出会える本もある。たとえばコンビニで、あるいは駅の売店で。

『素敵な日本人』(光文社)は、そんなふうに出会った短編集だ。

短編も、東野圭吾。規格外のベストセラー作家死角なし。

この帯の文句に、確かに、とうなずいて手にとった。

 

『正月の決意』

正月にはかき初めをし屠蘇を飲む。生真面目な初老の夫婦は、元旦早朝詣でた神社で、下着姿で倒れている町長を見つけた。宮司は見物客に賽銭も入れないくせにと追い払うし、駆けつけた刑事は新年会の方が気にかかる様子だ。そのうえ嘘の調書をとってさっさと終わらせようとするのだった。

 

『十年目のバレンタイン』

売れっ子作家の峰岸は、十年前に別れた彼女から食事に誘われ、浮かれていた。彼女がバレンタインにフレンチを予約したというのだ。十年前、何も言わず姿を消した彼女には、今このときまで待つ必要があったのだ。

 

『今夜は一人で雛祭り』

娘が嫁に行く。妻を亡くし、ひとり雛壇を飾る父。気の強い姑を任せっきりだった妻には苦労をかけた。娘には同じ轍は踏ませたくない。雛壇に隠された小さな謎とは。父と娘のコージーミステリー。

 

『君の瞳に乾杯』

合コンで意気投合したアニメキャラのようなメイクをした彼女は、むかしの話をしたがらない。本気で好きなんだ。告白すると彼女は、目を覚まさせてあげると、カラーコンタクトを外した。

 

『レンタルベビー』

未来にはこんな日が来るのだろうか。本物そっくりの赤ん坊ロボットで育児体験ができる。長期休暇を使って、エリーは赤ん坊を育ててみることにした。

 

『壊れた時計』

思わぬ展開で殺人を犯す羽目に陥った男。死んだ男の腕には割れた腕時計が時間を止めている。この時計を何とかしなくては。

 

『サファイアの奇跡』

青い毛並みの伝説のペルシャ雄猫の名は、サファイア。ブリーダーたちは、青い毛をした子猫を生み出そうと躍起になるがいまだ実現していない。そして14匹目の子猫が生まれると、飼い主はみな事故死していった。

 

『クリスマスミステリ』

15歳年上の女流脚本家と関係を持ち、役者としてのし上がった男。若い恋人ができた今、別れるためには彼女を殺すしかない。クリスマスパーティの夜、彼女のワインに毒を入れ、すべてが上手くいくはずだった。

 

『水晶の数珠』

父の死後、代々長男が受け継いでいくという水晶の数珠を渡された。7年前に勘当され仲違いしたままの父からの遺書は、その数珠の取り扱い説明書だった。

 

なかでも印象に残ったのは冒頭の『正月の決意』。ネタバレになるが、生真面目な夫婦は、会社が傾き社員に給与も払えず、初詣の後死ぬつもりだった。

「死ぬのはやめましょう」

達之は妻を見た。彼女の顔には、何かを吹っ切った気配があった。肩の力が抜け、すべてを達観した目をしていた。

「あんなにいい加減な人間たちが、威張って生きている。あんな馬鹿かなくせに、町長だったり、教育長だったり、警察署長だったり」

「宮司だったりする……」

康代は深く頷いた。

「それなのに、どうして私たちのような真面目な人間が死ななきゃいけないの? そんなの絶対に変よ。馬鹿馬鹿しい。あなた、がんばりましょう。私たちもこれからは負けないで、もっといい加減に、気楽に、厚かましく生きていきましょうっ」

こんなにいい加減な人が、どうしてこんなに威張って生きていられるんだろう。よくそう思うことがある。それってわたしもまじめな部類に入るからだろう。日本人のまじめさが根底にあるのだろうか。

生真面目な根っこを振り払い、もっといい加減に、気楽に、厚かましく。

そんな素敵な日本人に、なれたらいいなと思う。

CIMG7254帯裏側には「四季折々の風物を織り込んだ、極上の九編」とありました。正月、バレンタイン、雛祭り、クリスマス、ペットや育児、競馬場に合コン、代々伝わる数珠。海外の文化もない交ぜになった日本を感じる小説集でした。

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PROFILE

プロフィール
2016-10-02-11-07-59-1
水月 さえ

随筆屋。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

夫が営む広告会社で経理を担当。

2012年から随筆をかき始める。

 

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。

 

『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

随筆かきます。

 

依頼はメールフォームからお願いします。

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