読み返したついでに、映画『ジョゼと虎と魚たち』を観た。
監督【犬堂一心】
〈cast〉恒夫【妻夫木聡】ジョゼ【池脇千鶴】
香苗【上野樹里】幸治【新井浩文】ジョゼの祖母【新屋英子】
2003年公開の映画だから15年前のものになる。観たのもたぶん10年以上は前だろう。そのわりにずいぶんと覚えていたが、ひとつ抜け落ちているものがあり、だからラストまで楽しめた。
小説にはない、ラスト。恒夫とジョゼは別れる。
その別れた理由だけを、記憶から失くしていた。
「別れの理由は、まあいろいろ。ってことになってる。でもほんとうはひとつだ。僕が逃げた」
出会いのシーンも違っていたが、それはセンセーショナルだったので覚えていた。坂道を転げ落ちてくる乳母車のなかには包丁を持つジョゼがいた。
ジョゼは生まれながらに下肢が不自由で、学校にも行けず、貧しい暮らしのなか祖母が拾ってきた本を読み育った。フランソワーズ・サガンの『一年ののち』を愛読し、登場人物の名「ジョゼ」を名乗るようになる。警戒心が強く、口を開けば憎まれ口になる。そんなジョゼに、恒夫は魅かれていく。
恒夫には、足が不自由なジョゼに同情するというところがかけらもない。
障がい者優遇措置で無料でキッチンを改装できることを知り手続きを買って出ると、工務店の社長に「いまどき珍しく誠実な若者」だと言われるが、恒夫は何を言われているのかさっぱりわからないといったふうだった。
ジョゼはそんな恒夫だからこそ、魅かれていったのだろう。
そして、足が不自由なのを武器にして恒夫を奪ったと香苗に詰め寄られたジョゼは、言い放つ。
「あんたも足切ったら、ええやないの」
ジョゼは恒夫にふれ、これまで知らなかった世界を見ることができた。それは海だったり、この世でいちばん怖い虎だったりした。
「一ばん怖いものを見たかったんや。好きな男の人が出来たときに。怖うてもすがれるから。……そんな人が出来たら虎見たい、と思てた。もし出来ひんかったら一生、ほんものの虎は見られへん、それでもしょうない、思うてたんや」
恒夫と別れた後も、そんななんやかやがジョゼのなかに残っていく。
妻夫木聡も、池脇千鶴も、若かった! 上野樹里も、江口のりこも。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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