『田村はまだか』、『平場の月』の朝倉かすみの『よむよむかたる』。舞台は、著者の故郷、小樽だ。
古民家カフェで開かれる平均年齢85歳の超高齢読書サークル
帯にある通り、最年長92歳、最年少78歳。メンバーの6人は、会場となる「喫茶シトロン」で20年間「坂の途中で本を読む会」(坂のまち小樽に暮らす人々が人生という坂の途中で本を読み、大いに語り合う会)を続けてきた。
そこに新しく28歳の青年、やっくん(安田)が入会する。コロナ明けに「喫茶シトロン」の雇われ店長となった小説がかけない作家が、成り行きに任せ、会に参加するようになったのだった。
小説は、やっくんの視点で進められる。
その視点が、独特でおもしろい。そして優しく温かい。メンバー6人の描写が細部までいきわたっていて、読み始めてまず、彼の人間観察眼に驚かされた。
やっくんは、メンバーたちにこっそりあだ名をつけて呼んでいる。マンマ(82歳)登場のシーンがこれだ。
イタリアのマンマを思わせる容貌だった。ふくよかで彫りが深く、眉が濃い。パーマをきつめにかけた赤茶色の髪をなびかせて歩いてくる。太めのハスキーボイスで「ヤー、生きてたかい?」と男どもに声をかけた。男どもは、イヤハヤまったく敵わないや、というふうにのけぞって、三人揃って大爆笑。
ほか、会長(88歳、もとアナウンサー)、シルバニア(86歳、もと中学教師)、蝶ネクタイ(86歳、もと中学教師で、もとシルバニアの同僚)、まちゃえさん(92歳、亡き息子を思い続けている)、シンちゃん(78歳、まちゃえさんの夫)というメンバー構成だ。
「坂の途中で本を読む会」は、読書会としても独特。まず、決められた本を順番に朗読する。一人の朗読が終わると、朗読者の隣から順番に、朗読「読み」についての感想を述べる。それから、内容について思ったことを話す、というもの。内容より朗読に重きを置いている。そして、本の内容よりも、本に出てきた事柄から思いを馳せた自分自身のことを話すことの方が、はるかに多いのである。
「よくあるじゃないですか。本を読んでると、特にどうということのないシーンや描写でも、それがきっかけでごく個人的な思い出が連想されること。記憶に埋もれていたこども時代のある瞬間や、家族とのなんでもない会話なんかが、渡り鳥みたいにはるばるとやってきて、ここに留まるというような」
会長は胸の真ん中に手を置いた。トントン、と、叩く。
読書家の妻に先立たれた会長は、妻と同じ本を読み、そんな話をしたかったとの後悔があり、それがこの「読む会」の土台となっているようだ。
メンバーたちは近所に住んでいるわけではなく、月一回の「読む会」でのみ顔を合わせる。そして、読み、語るのだ。誰にも話したことのないようなことをふと思いだして、素の自分に戻って、ここだけの秘密めいた、しかし他愛ないともいえる、それでもそれは、ここでしか話せないことごとなのだった。
つまり、こんなふうにこんなことを話せる仲間は、この人たちしかいない!
家族にも、近所の仲良しにも見せられない自分が、ここにいる!
だからこそ「読む会」には、熱があっても這ってでも出かけたいのである。
そんな彼らを見守り、二十周年行事(冊子作りと公開読書会)を成功させるべく動くうち、やっくんは彼らひとりひとりに魅了されていく。人の話を聞かないし、わがままでマイペースな愛すべきおじいちゃん、おばあちゃんたち。
そこに、やっくんと同年代の女性、井上さんが登場する。
「喫茶シトロン」のオーナーで、やっくんの叔母、満智留もやって来る。
20代の井上さんにも、50代の満智留にも、心に秘めたことごとはあるのだった。もちろん、やっくんにも。

まるで絵本のような表紙絵。しかし、この子は物語に登場するのでありました。

図書館で借りた本です。帯が貼られていました。
紹介したいことが多すぎてかけなかったけど、「読む会」では、佐藤さとるの『誰も知らない小さな国』を読み進めていきます。老人たちは、コロボックルの物語を読みつつも、自分自身に近づきつつある”死”について、考えたり語ったりするのでした。

随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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