米澤穂信だというだけで開いた『リカーシブル』は、表紙絵の雰囲気とはまったく違う、寂れた地方都市に転校した女子中学生が主人公の物語だった。
越野ハルカは、中学入学と同時に地方都市、坂牧市常井町へ越してきた。
家族は、ママと小学3年生のサトル。ふたりとは血がつながっていない。再婚したハルカの父親が会社の金を横領し蒸発し、生活していくため、ママはつてを頼り故郷へ流れてきた。
ハルカは、どこか冷めていて、中1にしては大人びている。
夕暮れに沈む町はどこもかしこも一片の情けもなくよそよそしくて、とてもわたしを受け入れてなどくれそうにない。でももちろん、それは気のせい。にっこり愛想笑いしてお腹に力を入れていれば、どんなことでも、きっとなんとかなるに決まっている。
そう信じていないと、気持ちが持ちそうにない。
それに比べ、サトルは泣き虫の甘えん坊だ。
だが、そのサトルが、この町に越してきてから不思議なことを口走るようになった。
「ああなるって思った。……前に見たことがあるもん。あの人が、お店のもの盗むところ」
置き引き犯の居場所を言い当てたり、知らないはずの事故の映像をまるで見ていたかのように話すようになっていく。
ハルカは、歴史の三浦先生に未来予知をした「タマナヒメ」の伝説を聞き、サトルの言動とリンクさせていくのだが。
うまくいかなかった高速道路誘致。誘致にかかわった大学教授の死。
教授が持っていたはずの消えたデータに賞金がかけられているという噂。
常井町に根づいた庚申講という信仰。5年前に焼死した現代のタマナヒメ。
そんなある日、三浦先生が追突事故に遭い大怪我をする。
そして、サトルがいなくなった。
サトルはなぜ、この町で起きるさまざまなことを「見たことがある」のか?
ハルカは危険の匂いを嗅ぎとりながらも、唯一友達になったリンカを頼りに、パズルを解いていくのだった。
ラストで一気に伏線回収していく小気味よさを、久しぶりに味わった。ミステリらしいミステリ。
2013年刊行。「このミステリーがすごい!」2014年「本格ミステリ・ベスト10」2014年版で第10位。
図書館で借りました。タイトルの意味は、こちら。
リカーシブ【recursive】再帰的な。自分自身に戻ってくるような。プログラミングにおいては、処理中に自らを呼び出すような処理をいう。
庚申講は、山梨のうちの辺りでもその昔、信仰されていたようです。っていうか、日本じゅうで広く信仰されていたってことみたい。写真は、韮崎市穴山の庚申塔。
「人間の体の中には、三尸の虫っていうのが住んでるんだって。それが、六十日に一度めぐってくる庚申の日、人間が眠ってる間に体を抜け出して、天の神様に人間の悪事を報告しちゃうの。すると寿命が削られちゃう……んだったかな。とにかく、その日は三尸の虫が出ていけないように徹夜するの」
「へえ……。それが庚申講なんですか」
毎晩ぐっすり眠ってるわたしは、悪事すべてを言いつけられているんだろうな。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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