能登へ向かう新幹線のなかで読んだ本は、山本容子の銅版画が34点も収められているとても贅沢な文庫本だ。
じつは、この本を買ったことを忘れていた。
2月に東京の母を訪ねた際、西日暮里の”bookApartment”(本棚を借りて自分のお店として利用できるシェア型書店)で購入したのだが、旅行用バックパックのポケットに入れたまま、すっかり忘れていて、旅の準備をしているときに発掘したのだった。
本の内容は、海外を旅したときのホテルでの思い出。
「鍵 key」「朝食 Breakfast」「エレベーター Elevator」など、ホテルになくてはならないものをテーマに据えた16編のとても短いエッセイが、温かみと可笑しさを感じる洒落た銅版画とともに並べてある。
例えば「窓 Window」。
シャガールの自画像のように窓からエッフェル塔が見える部屋をとった(正確にはパートナー氏にとってもらった)彼女は、窓の大きさや窓枠の素材などで風景が変わることに驚く。
窓に向かって椅子に座ると、十人くらいのスポーツマンが球技の練習をしているアンツーカーと芝生の競技場の光景が、窓の画角の下半分に見えて、エッフェル塔が主役の映画の一シーンを見ている気分になった。そんな気分になったのも、窓枠が金属製だったことと、そのワイド・スクリーンのような大きさによるものだったと思う。
また「グラス Glass」では、ROOMと印字され、よく磨かれたグラスで水を飲み、思い出したことがかかれていた。
それは小さな銀座のバーで、マスターに磨き上げられたグラスだった。ウィスキーの水割りが一番似合うグラスで、氷がふれると澄んだ音がして、持ち上げるとキュッと手のなかにおさまった。一口飲むと、なんだかホッとするグラスだった。
「バスルーム Bathroom」では、ハンガリーでレストランでの失礼な振る舞いに、お湯に浸かりながら存分に泣いたことが。
「電話 Telephone」では、ヴェネツィアのホテルがとれず、ふてくされて宿泊したリド島のホテルからヴェネツィアじゅうのホテルに電話したことがかかれていた。
なんとも情熱的な女性である。
あとがきは、愛犬ルーカス・クラナッハの言葉で締めくくられている。
私は世界のあちこちのホテルでの話をずいぶんと聞かされました。ところがびっくりしたのは、何とそのエピソードのあれこれが飼い主の絵と文章によって一冊の絵本にされることになったことです。私のほうが恥ずかしい気がしてしまいます。
許されるなら、ルーカス・クラナッハの頭を撫でながら、彼のおしゃべりをもっと聞きたいものである。

長い名前がお洒落です。

栞の絵と同じ外観の”西日暮里bookApartment”。

150の本の部屋があるんですね。

「旅するやまねこ舎」さんおすすめの文庫本でした。

「旅するやまねこ舎」さんのスペース。

店内は撮影OK。小さなアパートメントの部屋には、それぞれの思い入れたっぷりの本たちが並んでいました。

目次です。

随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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