行定勲監督で映画化もされた吉田修一の短編集。
2006年に出版され、2010年に映画化されているから、10年以上前の物語になるが、内容はそれをさらに遡る。
「男が、むかしの女を思い出して語る」というテーマが共通項になった短編だ。
なので、メールも携帯もない頃の話もあり、公衆電話に並ぶシーンもあり、当時別冊マーガレットに連載されていたマンガの名だって登場する。
「どしゃぶりの女」ユカとは、どしゃぶりの日に会った。友人が連れてきた二人の女のうちのひとりで、アパートの部屋で一夜を共にした。
「雨が上がるまでいれば」
と言ってしまったことを〈ぼく〉は後悔する。雨は3日間降り続き、ユカはそのまま居座った。ひと月ほどいた彼女は、どこへも行かず、掃除や料理などは何もしなかった。ただ〈ぼく〉が毎晩買ってくる弁当を美味そうに食べた。
ぼくは期待していたのだと思う。どんなことがあっても、じっと部屋でぼくの帰りだけを待っているユカに、期待し、何かを求めたのだと思う。
「泣かない女」智子は、よく泣いた。ドキュメント番組を観ては泣き、絵本を読んでは泣き、〈ぼく〉が勝手にケーキを食べたと言っては泣いた。けれど〈ぼく〉が絶対に泣くだろう、ほかの女だって泣く、と思っていたシーンで智子は、顔を歪ませることすらしなかった。
「平日公休の女」は、元カノとよりを戻した〈ぼく〉に、言った。
「私が、こんな男となんて別れてよかったって思えるくらい、イヤなことしてよ」と繰り返す。
〈ぼく〉は考えた挙句、ある行動をとった。
「最初の妻」かずみとは、十三歳の頃、一度だけデートした。電車とバスを乗り継ぎ、知らない町を歩いた。知らない家をふたり見ながら結婚したらどんな家に住みたいか話した。
「最初はアパートよ。それでお金貯めて家を買うんだから」
彼女はそう言うと、目の前にあったおんぼろアパートを指さした。そして、「じゃあ、このアパートだったら?」とまた訊いてきた。
窓にはたくさんの洗濯物が揺れ、階段の下に汚れた三輪車が打ち捨てられている。
「ここ?」
ぼくは大げさなほど大声を出し、「こんなところで暮らすくらいなら、死んだほうがましだよ」と言い放った。
二人の新婚生活の話は、ここで終わったのだが。
タイトルは『女たちは二度遊ぶ』だが、登場する女たちは、どちらかと言うと男に振り回されている印象だ。ふらふらしている男たちを思い続ける姿が胸に痛く、切なかった。
映画はオムニバス形式で、相武紗季、小雪、優香、水川あさみ、高良健吾、ユースケ・サンタマリアが出演しています。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。
管理人が承認するまで画面には反映されません。