久しぶりに湊かなえが読みたくなって手に取った文庫は、タイトルからもわかるように手紙のやりとりだけで構成されている。
映画『北のカナリアたち』を観ていたので、その原作が入っているこの小説集は、なんとなく避けていたのだが、結論を言うと、読んでよかった。ほかの2編も、秀逸だった。
「十年後の卒業文集」
高校時代、放送部だった浩一と静香が結婚した。
悦子、あずみ、文哉、良太と放送部員の仲間が出席した式に、来なかったのは、千秋ひとり。
千秋と幼馴染みでもある悦子は、美しくモデルもしていた彼女は、顔を怪我してその後、消息を絶っているらしいと聞かされる。
千秋は、今どうしているのか。高校時代、浩一とつきあっていた彼女は、顔の怪我がもとで身をひいたのか。
願いを掛けたあとは、麓の一本松までひと言も口をきいてはならぬ。
地元の「月姫伝説」をモチーフに、ラジオドラマを制作した7人。
結局、最後まで黙って下りたのって静香だけだったじゃん。きっと、浩一くんのことを願掛けしてたんだよ。それが叶った、でいいんじゃないかな。
千秋の事故は、なぜ起こったのか。静香も巻き込んだ往復書簡の果てに、真実が明かされる。
「二十年後の宿題」
『北のカナリアたち』の原作となった小説だが、考えていたのとまったくイメージが違った。まず、北海道の島で起こったことではなく、ここ北杜市明野町に近いような田舎、山から川が流れてくる里山の小学校(たぶん明野より少し子供の数も多い町)での事件がベースになっている。
竹沢真智子教諭は、もと教え子の大場に頼みごとをした。
20年前に担任していた小学4年生6人の消息を知りたいと。
あの子たちは今、どんな人生を送っているのだろうか。それを確認してから、教員生活に終止符を打とうと決意しました。
大場は一人目の真穂に会い、20年前の事故のことを知る。竹沢は、子供たちと出かけた山で、夫を亡くしていた。
六人とは、事故が起きた日に一緒に出かけていた子どもたちなのですね。六人の子どもたちが事故で負った心の傷を、その後の人生に引きずっていないかと、気になられているんじゃないでしょうか。
大場は、ひとりひとりと対峙していくうち、教師として人として、自分の生き方を深く考えていくのだった。
「十五年後の補修」
国際ボランティア隊として発展途上国の子供たちの教師をすると、純一は辺境の国へと旅だった。2年は帰国しないという。中学生の頃からの恋人、万里子は、なぜ相談もせずに決めてしまったのかと、不安と純一への思いを手紙に綴る。
あなたは自分を追いつめていませんか?
二人を救えなかったことを悔やんでいませんか?
15年前、中学生だった純一と万里子は、同級生ふたりを亡くす事故に巻き込まれていた。
「一年後の連絡網」
「二十年後の宿題」「十五年後の補修」の登場人物のその後がわかる、追伸的な掌編。
手紙という片方ひとり視点を、交互に、あるいはほかの誰かを交えながら繰り返されていくうちに、読み手に真相が明かされる心理サスペンス的ミステリー。
驚きと納得を読者にもたらすラストは、素晴らしい。
巻末に、吉永小百合のインタビューが添えられていました。
なんと、この原作を使おうと提案したのは、吉永小百合だったそうです。そんなふうに映画が作られていくなんて、びっくり!
「十五年後の補修」は、ドラマ化されていました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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