スーパーカップは、日帰りでの東京行きだった。
朝、雪を掻き、雪道を駅まで慎重に走り、雪の心配のない駐車場を探し、ぶじスタジアムの到着したときには、ホッとした。
健闘したヴァンフォーレ甲府を讃えつつ、新宿に着いたのはあずさが出たばかりの夕刻。1時間待ちだ。
「ゆっくり珈琲でも飲みたいね」
「そうしよう」
とは言ったものの、土曜日夕刻の新宿は、どのカフェもいっぱい。みな並んでいた。
こちらは、並ぶほどにこだわっているわけでもない。
「高島屋の地下食品売り場に、たしか珈琲を飲める場所があったはず」
何年か行っていないその場所も、あるにはあったが満席だった。
歩きながらぐるりと周囲を見回すと、ベンチやベンチともつかない段差に座ってテイクアウトした珈琲などを片手にしゃべったりする人たちが目立つ。
東京って、すごいな、なんか違うな。
東京生まれ東京育ちのわたしだが、つい、そう思ってしまう。
持ち時間の半分、30分ほど無意味に歩き、ふたりで座れるベンチを見つけた。
座ってみると、思いのほか疲れていたことに気づく。
ふと顔を上げると、向かいに珈琲屋が見えた。やはり満席だ。
「買ってくるね」
珈琲にはこだわりがあるわたしが、買いに行く。夫はもう、座ったら立ち上がりたくない様子だ。
何でもいいや、熱い珈琲が飲みたい。
そう思っていたが、しかしその店はスペシャルティ・コーヒーを淹れるこだわりの珈琲チェーンだった。
「カプチーノとカフェラテを。テイクアウトで」
ブラックが好きでも、ミルクたっぷりのラテを飲みたくなるシーンもある。
オーダーしてから豆を挽き、カップを温め、珈琲を淹れることにこだわる店だった。
待つあいだ、カウンターに8つほど並ぶストレートのドリップ珈琲をテイスティングした。エチオピア。ホンジュラス。グアテマラ。
どれも好みの浅煎りで、酸味の利いたさわやかな珈琲だ。
ふと目をやると、スタッフさんは、テイクアウト用の紙コップのラテにハートを描いている。時間をかけない瞬間芸だ。
「蓋、するのに? 蓋、開けない人だっているのに?」
クエスチョンマークは飛ぶが、無論、声には出さない。
ただわたしは、そっと蓋を開けてハートの絵柄を見つめてから、ラテを飲んだ。
蓋に仕舞われたラテアートは、慣れない東京を歩き回った山梨の田舎から来たわたしたちを、心の芯のところから温めてくれた。
夫のカプチーノ。
わたしのカフェラテ。ちょっとピンボケ。
新宿駅新南口改札近くの「VALVE」は、カリフォルニア発のスペシャルティ・珈琲チェーンだそうです。東京って、なんて人が多いんでしょう。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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