庭のスズランが、蕾をつけている。
スズランの蕾は、花が咲く形よりも茎の部分が伸びきっていないうちに葉に抱かれたように膨らんでくる。何度見ても、葉っぱに抱っこされている赤ん坊のように見え、顔をほころばせてしまう。薄いグリーンの赤ん坊をいくつも抱いた葉っぱたちが、そろって伸びてくるのだ。
そのなかに、他よりも少し早く伸びているスズランがあった。いちばん下に抱いた赤ん坊をぽろりと落としてしまったように、ひとつだけ蕾を下に垂らしている。それを見て、思わずにはいられなかった。
「みんなみんな母親の腕のなかから外へ出て、咲いていくんだよな。逆に、そうしなければ、伸びていくことも咲いていくこともできないんだよな」
この春末娘への仕送りが終わった。これで3人とも巣立っていったことになる。
彼女は大学を辞め、バイトをしながら好きな芝居をする道を選んだ。心配だが、もうとうに母親の腕からはこぼれ落ち、自らの力で伸び始めているのだと知っている。だがそうはわかっていても、スズランがこぼした蕾を見ていたら、何か手放してはいけないものをこぼれ落としてしまったかのように、腕がすうすうしてきた。たぶんそれが、母親というものなのだろう。
まだ青い蕾です。伸びて伸びて、咲いていくんだね。
ちっちゃいなー。たくさん出てきました。可愛い!
蕾をこぼしていたスズランです。もうすぐ咲くんだよね。
隣りの林の山桜が、きれいに咲いています。
ハナミズキも白と赤、隣り合わせて咲いています。うれしい。
スズランの蕾など初めて見せていただきました。豊かな葉っぱに抱かれるようにして蕾ができ、そして徐々に膨らんでいき、やがて零れ落ちるように咲くのですね。
春の土に一斉に豊かな葉を出し、白い蕾を抱いている鮮やかな画面を見るだけで何故か涙ぐんでしまいました。
自然は黙っていろいろのことを教えてくれますね。
母親の腕から零れ落ち自らの力で伸び始めているわが子。「手放してはいけないものをこぼれ落としてしまったかのように腕がすうすうしてきた」
はじめての子を授かった時から、母親は何度か「腕がすうすうする」のを感じてきたようにも思えるのです。
5月1日はスズランの日、フランスではこの日にスズランをプレゼントする習慣があるって、久々に思い出したりしながら—。
と思いつつ
Yasukoさん
スズランの蕾、可愛いでしょう?
スズランは咲いているときも清楚で可憐で好きなんですが、蕾も好きなんです。
自然は黙っていろいろなことを教えてくれる。
その通りですね。
母親の気持ちって、たぶん母親にしかわからないんでしょうね。
5月1日のスズランの日には、咲き始めるかな?
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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