東京に出た際、夫との夕食にスペイン料理の店に入った。
神保町の「オーレオーレ」という初めて行く店で、火曜日にはフラメンコが観られるという。残念ながら火曜ではなかったが。
パエリアを食べるほどの元気はなく、魚と肉をそれぞれシェアすればいいかと鰤のカルパッチョと蝦夷鹿のローストをオーダーしたが、これだけは薦めなくちゃといった感じで店主らしき男性がやってきた。
「今、ハモンがいちばん美味しいところなんですよ。木の実だけしか食べさせていない豚です」
「ハモンイベリコって、木の実だけしか食べてないんだ?」
何度かスペインに行っているにもかかわらず、知らなかった。
「そうだよ。ですよねえ」と、夫。
「はい。そのうえ疲労回復に、いいビタミンが豊富ですよ」
「疲労回復かあ」
今度は、夫の食指が動いた。
結局、ハモンイベリコを食べることにした。たしかに脂がしっとりとのっていて、絶品だった。
こうして何度か食べているにもかかわらず、知らないことっていっぱいある。
最初は、すれ違うだけ。でも、次はもっと親しくなって、さらに深く知っていく。
食事も人も、旅もまたそういうものかも知れない。
柚子の香りが利いた鰤のカルパッチョ。
レバーの入った田舎風パテ。
疲労回復にいいというハモンイベリコ。薄くてぺろりと食べちゃいました。
蝦夷鹿のロースト。黒すぐりのソースがさっぱりしていていい感じ。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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