「筑前煮、久しぶりだね」
夫が、うれしそうに口に運ぶ。
「むかしは、よく作ってたよね」
「そうだっけ」
それはたぶん、結婚したての頃のことだ。
母は料理があまり得意ではない。わたしが料理を覚えたのは高校生の頃で、教えてくれたのは、土井勝の料理本だった。筑前煮は何度作ってもけっこう評判がよく、繰り返し作ればまた上手くもなった。土井勝の料理本には基礎がしっかり載っていて、じつにまじめに忠実に覚えていったのもよかったのかも知れない。
そんなわけで筑前煮は、結婚した頃数少なかったわたしのレパートリーの上位に位置する定番料理だった。
それから幾年月。定番料理の数も増え、筑前煮はいつのまにか忘れ去られていた。思い出したのは、先週はす向かいのご夫婦と家飲みした際、牛蒡と豚肉の炒め煮を持ってきてくださって、その牛蒡がやたらと美味しかったからだ。
外食もそうだけれど誰かが作った料理を食べると、新しい発見もあるし、こんなふうに忘れていたことを思い出すこともある。
主婦だからこそ、たまに外食するのは大切なことなんじゃないかな。
筑前煮は、”がめ煮”とも呼ばれる筑前地方の郷土料理だそうだ。一度本場でも食べてみたいものである。
筑前煮、のらぼう菜と鶏の辛し和え、ひじきの煮物、鰤のお刺身の夕餉。
こんにゃくを買い忘れましたが、じゅうぶん美味しかった。
翌朝も、筑前煮いただきました。家庭菜園をしている方にたくさんいただいたのらぼう菜はお味噌汁にも入れて。
ひじきの煮物は、あと少し残っています。お味噌汁は胡麻油で炒めた茄子に生姜と葱をのせて。
☆『地球の歩き方』ニュース&レポートに記事をかきました。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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