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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『デッドエンドの思い出』

よしもとばななの『デッドエンドの思い出』(文春文庫)は、大好きな短編集だ。特に1話目の『幽霊の家』と表題作が好きで、何度も読んでいる。

 

『デッドエンドの思い出』は、大失恋した〈私〉が、叔父に借りた部屋でひきこもる生活をする。その1階でスナックのような店「袋小路」の雇われ店長をしているのが、西山君だ。彼は〈私〉を気づかいつつも、ムリに励ましたりはしない。ただ食事や散歩に誘い、普通にしゃべって普通に歩くだけだ。

 

「これまで書いた自分の作品の中で、いちばん好きです。これが書けたので小説家になってよかったと思いました」

帯にかかれた著者の言葉は、この表題作に向けたものだろう。

 

『幽霊の家』にも、西山君と同じくらい、気のいい男の子が登場する。

死んだことに気づかずその家で暮らし続ける幽霊の老夫婦を微笑ましく思い、そっと見守りつつ同居している岩倉くん。西山君にしても岩倉くんにしても、〈私〉との距離のとり方が、そっけないようで温かく、なんとも素敵なのだ。

読んでいてほんわり心地よくなるのは、彼らと〈私〉との距離のなかにある、ぬるく穏やかな空気がそう感じさせるのかも知れない。

 

さて。『デッドエンドの思い出』

あるとき〈私〉は、ふと西山君に尋ねる。

「幸せっていうと、何を思い浮かべるか」を。

そして自分が先に、答えを言う。のび太くんとドラえもんを思い出す、と。

「のび太くんはふたつに折ったざぶとんにうつぶせの体勢でもたれかかって、ひじをついていて、ドラえもんはあぐらをかいて座っていて、そして漫画を読みながらどら焼きを食べているの。ふたりの関係性とか、そこが日本の中流家庭だっていうこととか、ドラえもんが居候だってことを含めて、幸せってこういうことだな、っていつでも思うの」

西山君の答えは、こうだった。

「俺は、自由な感じかな。これからどこにいっても何をしてもいいけど、冴えない気持ちじゃないとき。そういうとき、おなかの底から力がわいてきて、どこにでも行けるような気がする。実際どこに行くかじゃなくて、その力がわいてくる感じが幸せ」

彼は子どもの頃、2年近く父親に軟禁され助け出されるという経験をしていた。そのことで、父親を悪者だという目で見る世間にも違和感を抱いている。

 

深く傷ついた心を抱え、しかし西山君と過ごした日々のなかで、〈私〉は幸せの象徴だと思えるものを胸に残していく。

あの日々はどうしようもない気持ちだった私に神様がふわっとかけてくれた毛布のように、たまたま訪れたものだった。

幸せっていうと、何を思い浮かべるだろう。

ふっと思いついたのは、洗面所でふたり歯磨きするシーンだった。中村航の『100回泣くこと』(小学館文庫)で、恋人同士、口に歯ブラシを入れながら、しゃべれないまま洗面所をとり合いする。そのシーンが大好きなのだ。〈私〉がドラえもんをイメージしたように、わたしはそのシーンをイメージした。

 

あなたは「幸せ」をイメージしたとき、何を思い浮かべますか?

CIMG5261『幽霊の家』『おかあさーん!』『あったかくなんかない』『ともちゃんの幸せ』そして『デッドエンドの思い出』の5編が収められています。献辞に「藤子・F・不二雄先生に捧ぐ」とありました。

COMMENT

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  1. Yasuko より:

    久々にブログを拝見。
    よしもとばななって作家はよく知らないけれど、何という言葉を紡ぐ作家なのかと感動しています。
    「あの日々はどうしようもない気持ちだった私に神様がふあっとかけてくれた毛布のようにたまたま訪れたものだった」 若いって辛いなあ、と思いながら。
    「幸せ」をイメージしたとき何を思い浮かべますか?
     とたんに、黄色く染まった銀杏(そうです、帯の言葉の右隅にある一枚の銀杏)が浮かびました。
    紅葉いっぱいの表紙ももちろん素敵ですが。
    「神様がふあっとかけてくれた毛布」を何度も感じながらウン十年生きてきたなあ、と。

    • さえ より:

      Yasukoさん
      若いって辛いなあ、に共感です。
      よしもとばななは、わたしにとっては、スーッと読めるものと、そうでないものに分かれる小説家です。
      黄金色の紅葉、温かく見えますよね~♩
      何度も「幸せ」を感じて生きてこられたんですね。
      見習いたいと思います♡

CIMG6581

PROFILE

プロフィール
2016-10-02-11-07-59-1
水月 さえ

随筆屋。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

夫が営む広告会社で経理を担当。

2012年から随筆をかき始める。

 

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。

 

『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

随筆かきます。

 

依頼はメールフォームからお願いします。

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