表紙のイラストにひどく魅かれた。
といっても本物の表紙は写真で、イラストよりもシンプルな白を基調とした部屋だ。
表紙の上にかけられていた本と同じサイズの帯のようなカバーの絵のことを言っている。基調は赤と薄いパステルグリーンだ。
時代は遡る。20歳の初め、まさに麦本三歩(むぎもとさんぽ)と似たような年齢だった頃、憧れたひとり暮らしの部屋がこういうイメージだった。
実際パステルグリーンの絨毯を敷いたし、ランプシェードの色も合わせた。カーテンは白地の赤の模様が入った布で縫い、白地に赤い模様が入ったやかんを友人にプレゼントしてもらった。フローリングではなく畳、それも6畳一間で風呂もなし。それでも、出来得る限り素敵な部屋に仕立てたかった。
あの頃憧れた部屋が、『麦本三歩の好きなもの』のイラスト表紙のなかには、すべて揃っているように見えたのだ。
好きなものに囲まれた暮らしって、いいなと思う。
そんな三歩の好きなものと暮らしが描かれた、のんびりゆったりとした小説だ。
冒頭の『麦本三歩は歩くのが好き』から引用してみよう。
歩くのが好きな理由について、足を前に出すだけだからだろうと、三歩は思う。いかにも無意味で間抜けな理由だけれど、三歩は真面目にそう思っているし、その無意味は大事なものだとすら思っている。
どこかで誰かが言っていた。無意味に散歩出来る人こそが価値のある人間なのだと。
ほかに三歩の好きなものは、勤務先である図書館、ワンポイント、年上、ライム、生クリーム、ブルボン、魔女宅、ファンサービス、モントレーなどなど。
ぼうっとしていておっちょこちょいな(物事に集中しすぎるタイプだと三歩は自己分析しているが)彼女の日常は、小さな冒険に満ち満ちている。
イラストは、HAIが描いています。
三歩役のモデルは、モモコグミカンパニー(BisH)。黄色い紐栞が目にまぶしいですね。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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