『常設展示室』を読み、図書館でアートをテーマにした原田マハの短編集を探すと、2冊見つかった。
先に読んだこちらの方が、2020年刊行なので新しい。
日本の美術館にある6枚の〈あの絵〉から巻き起こるストーリーを、6編の短編小説にしている。
「ハッピー・バースデー」~ゴッホ「ドービニーの庭」ひろしま美術館
母と夏花と娘の夏里は、親子3世代揃って、広島カープの熱血サポーター。
夏花は、東京での辛かった終活の夏を思い起こす。
「窓辺の小鳥たち」~ピカソ「鳥籠」大原美術館
同棲中の大好きななっしーが、アメリカに行ってしまう。詩帆は、行かないでとだだをこねながら、初デートで行った大原美術館を思い出していた。
「この鳥なあ。かごの中にいるのと違うような気がする」
ふいになっしーがつぶやいた。私は、ナッシーを見上げた。
「どういうこと?」
「うん。かごの向こうに窓があるじゃろ。鳥が飛んできて、たまたま窓辺にとまった。それが、空っぽの鳥かごの向こうに、鳥かごを通して、見えているだけ」
「檸檬」~セザンヌ「砂糖壺、梨とテーブルクロス」ポーラ美術館
入社したばかりの会社で、自分が”炎上”していると忠告されたあかねは、絵を描くことに夢中だった高校時代、自分につけられた×を忘れられずにいた。
カンヴァスを抱え思い詰めたように電車に乗る女子高生を見かけ、思わず反対方向の電車に乗車してしまう。
「豊饒」~クリムト「オイゲニア・プリマフェージの肖像」豊田美術館
ボロアパートで独り暮らす作家志望の亜衣は、ここしばらく商品にレビューをかき込むさくらの仕事しかしていなかった。
だがある日、隣の部屋にスガワラさんというお婆さんが引っ越してきて、亜衣は、育ててくれた祖母との約束を思わずにいられなくなる。
つやのある栗色の髪、あでやかな紅の頬。透き通るように白い肌、ふくよかな身体。かくも豊饒に、爛漫にと花開いたその人が、約束通り、私を待っていてくれた。
「聖夜」~東山魁夷「白馬の森」長野県立美術館・東山魁夷館
21歳で死んだ息子の誠也。あれから10年。忠と〈わたし〉の夫婦は、仕事を引退し、墓に近い蓼科で暮らしている。
生前、結婚の約束をした女性を紹介すると言っていた誠也。果たされなかった約束は、もうひとつあった。
「さざなみ」~モネ「睡蓮」地中美術館
仕事中に突然倒れたあおい。子宮筋腫が見つかり手術となった。そのまま仕事も失い、茫然自失。入院中テレビで見た地中美術館へ行こうと、飛行機に乗ってしまう。
モネの「睡蓮」の前で、絵に惹きつけられ動けなくなった彼女の横には、同じように長い時間「睡蓮」を見つめる初老の男性がいた。
岡山の「大原美術館」はちょうど1年くらい前に行ったというのに、ピカソの「鳥籠」はまったく記憶になかった。
もう一度観てみたくなったし、どの美術館も国内でもあり、行ってみたくなった。
登場人物たちは、みな何かを思い出していた。
絵に、記憶を重ねていた。
もし、わたしが〈あの絵〉のまえに立ったら、何を思い出すのだろう。
そして、わたしの〈あの絵〉は、どこにあるのだろう。
英語のタイトルは『A Piece of Your Life』でした。
もう1冊は『モダン』。どんな小説集かな。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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