不意に、ふたたび開きたくなる文庫本がある。
江國香織の『ホテルカクタス』。
主人公は、「帽子」と「きゅうり」と「数字の2」のお三方。連作短編集である。
以前、そのなかの「眠れない夜」と「音楽」と「どろぼう」を紹介した。
今回は、「ある日曜日の発見」。
アパート「ホテルカクタス」に越してきて、きゅうりの部屋に集まって飲んだり、連れだって博打に出かけたり、同じ女性に恋をしたりした3人。
ある朝、きゅうりと数字の2が、近所の雑貨屋でばったり会った。
そこでふたりは、偶然同じ”あること”に気づく。
別の場所で見かけた友人は、いつもと違って見える。これはおもしろいと。
口火を切ったのは、きゅうりだ。
「きみは、おもてで見ると別人のようだね。日曜だっていうのにワイシャツとズボンなんか着ちゃって、新聞なんか買って、おまけにその新聞の買い方がきどっていて、つまりこう片手でさ、小銭を渡すと同時に新聞を受けとっただろう? まるでどっかの嫌みな役所づとめ野郎みたいに見えたから、あやうくきみだとわからないところだったよ」
数字の2も、思ったとおりにいう。
「きみだって別人のように見えたよ。いかにも筋肉自慢って感じで、これみよがしのランニングシャツがね、なんていうか、ちんぴらっぽかった。アパートから雑貨屋まで歩いて五分もかからないのに、わざわざサングラスを頭にのっけてるしさ、どっかの、しゃれのめした不良かと思っちゃったよ」
ふたりは、じゃあ帽子はどんなふうに見えるのか、呼んでみることにした。
2ときゅうりは我慢出来ずに笑いだしました。2の目には、帽子がまるで「逃亡中の犯罪者」みたいにあやしく見えたからですし、きゅうりの目には「くたびれた、ただのおじさん」に見えたからです。
ふたりはうれしそうに顔を見合わせる。僕らは、帽子が外見とは別人であることを知っているのだと。
友達や家族って、こういうものかもしれない。
外見だけでは計り知れない「別人」の部分を知っているのだから。

「ホテルカクタス」は、行ってみたい場所のひとつです。ラストには取り壊されてしまいますが。

本棚の江國香織コーナー。マイベスト江國香織は、『ぼくの小鳥ちゃん』です。ほかにも、図書館で借りて読んだ江國香織の小説もあるから、何冊読んだか不明です。

随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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