『そして、バトンは渡された』本屋大賞受賞記念連載ということで、引き続き瀬尾まいこを再読している。
4編から成るこの連作短編集は、若き占い師ルイーズ吉田が主人公。と言っても厳しい修行を積んだわけでも、ましてや特別な能力があるわけでもない。人間関係に疲れOLを辞めたルイーズが見つけた就職先がジュリエ数術研究所。占い師の仕事だった。
「あなたはそう見えて、弱いところがあるでしょう? 優しすぎるって言うか、いつでも自分のことを置いて、人のことを考えすぎてしまうのよね」
「そうなんです! 私って外見で気が強いように思われちゃうんだけど、本当は違うんですよね」
OL時代営業をしていたルイーズは、ちょろいものだと思う。
性格を言い当てて、この先いいことがあるってことをほのめかしておけばいい。それでお金がもらえて、相手だって気持ちよく帰っていく。
けれど、なかなかに手強い客もやって来るのだった。
1話『ニベア』
ルイーズのもとにやってきたのは、8歳の小学生、堅二。
「僕、次は四年生になるんだ。だから、自分の意志で決めなくちゃいけないかなって思って。四年生になるときには、お父さんかお母さんかちゃんと決めておきたいんだ」
2話『ファミリーセンター』
彼の気をひきたいと女子高生が恋の占いにくるのは珍しくないが、まゆみは何度上手くいかなくても引き下がろうとしない。
「汚い手って。人聞きの悪いこと言わないでくださいよ」
私は膨れてみせたけど、結構図星だ。強運の持ち主だと知った通彦を、なんとか手に入れるため、占いにかこつけてはなんだかんだと言いくるめたのだ。
「人聞きが悪くたって、どうだっていいじゃない。その子にも、ルイーズの秘策を伝授してあげなさいよ」
3話『おしまい予言』
珍しくやってきた男子武田くんは22歳。軽い感じの関西弁をしゃべるが、おしまいが見えるという。
「おばちゃん、あと一週間や」
「え?」
私もおばさんも武田君のほうを見た。
「その寝たきりのじいちゃん。一週間で終わる。死んでしまうんか、回復するんかは、わからんけど、とにかく一週間で終わるわ」
4話『強運の持ち主』
ルイーズは、弟子をとる。竹子さんは24歳のシングルマザー。師匠の助言から正反対の性格の彼女を選んだのだが、なかなか上手くいかない。打開策にと、強運の持ち主である通彦を占ってもらうのだが。
「あの人には、先月くらいから、暗闇が近づいてるんですよね。もうすぐ、闇の中に突入するはずです。そのせいで、強運も落ち込んでました」
「うそ!?」
私は竹子さんが書いた占いの記入用紙を手に取った。生年月日や姓名から読み取れる運勢は最高のままだ。だけど、竹子さんの言うとおり、今の星回りと通彦の星の相性は最悪だ。
ルイーズはちょろいものと口で言いつつも、自らも占いに翻弄されながら、人の心の奥底に潜む本来の光を見つめていく。
ルイーズみたいに、ほどよくいい加減で人のいい占い師がいたら、ぜひ占ってほしいものだ。
ストーリーとはほぼ関係はないけれど、通彦の作る料理が奇想天外でおもしろいんです。シチューにはんぺんが入っていたり、牡蠣鍋の〆にマカロニを入れたり。そこここでくすっと笑えるのが、瀬尾まいこの特徴のひとつです。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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