観たいと思う映画が、ことごとく山梨で公開されていない。『ハナレイ・ベイ』に引き続き、映画『生きてるだけで、愛』である。
やはり悔しいので原作を読んだ。本谷有希子の小説を読むのは久しぶりだが、冒頭からぶっ飛んでいて爽快だ。
女子高生の頃、なんとなく学校生活がかったるいという理由で体中に生えてるあらゆる毛を剃ってみたことがある。髪の毛、眉毛、脇毛、陰毛。まつげと鼻毛はさすがに無理だった。でもツルツルになって鏡の前に立ったあたしは長い手足と頭の形がきれいなお陰でこれが美だといい通せばいけそうな気がしたんだけど、やっぱり親には泣かれたし、先生には怒られたし、友達には心配されたり見て見ぬふりをされたし、狂ってるとまで言われちゃったりなんかして、浮きまくった女子高生だった。
寧子(やすこ)は、25歳。3年前にコンパで知り合った津奈木の部屋に転がり込み、以来同棲中だ。津奈木(32歳)はすべてに反応が薄く、感情を露わにすることはない。悪名高い雑誌の編集をしているのも「そこに配属されたんで」と受け入れている。コンパの夜、酔って吐いて頭をぶつけ血を流す寧子をもまた、受け入れたのだった。
「……頭の後ろから血が出てますよ」密室がウガゴンと動き出してから、津奈木が静かに教えてくれた。
「たまに出るんです」あたしはドアの上部で点灯している数字を見上げながら、わけの分からないことを答えた。津奈木は首をあたしと同じ角度まで上げて黙った。
「……病院には行きますか?」ぽつりと津奈木が言う。
「保険証がないからいいです。それより」
到着したエレベーターの扉が開き、あたしは新鮮な空気を求めてエントランスに出た。
「それよりこういう時って思いっきり走りたくなるんですけど」
寧子は定期的に、鬱状態に入る。眠り倒し、津奈木にイライラする。鬱状態と躁状態を繰り返す病状だ。「過眠症」「メンヘル」自らそんな言葉で括っている。そんな日々の連続に割って入ったのは津奈木の元カノだ。彼女は寧子に言いつのる。思いつく限りの暴言を浴びせ続ける。
「なんであんたの腐りきった怠慢のせいで貧乏くじ引かなきゃなんないのよ。貧乏くじよ、本当。何もする気にならないならさ、もう死んじゃえばいいじゃん。部屋で一生寝てるのと死んでるのってほとんど同じでしょ」
そして彼女のごり押しで、寧子はイタリアンレストランで働くことになったのだが。
自分のダメなとこ、嫌なとこ、情けないとこ、そんなのわかってる。だけど、じゃあどうしてあたしと一緒にいるの? もっとわたしのこと、わかってよ!
寧子のくるくると変わる気分と言動から、そんな叫びが聞こえてくる。
「あんたが別れたかったら別れてもいいけど、あたしはさ、あたしとは別れられないんだよね一生」
映画はまだ見ていないけど、予告編は観た。それでもう冒頭からすでに、寧子の顔は趣里だし、津奈木は菅田将暉になっていた。
映像ってすごい。絶対観てやるぞ!
表題作の前日譚である短編『あの明け方の』を収録。本谷有希子の小説は、『嵐のピクニック』と『異類婚姻譚』と『自分を好きになる方法』を紹介しています。
あさイチで、この映画の紹介を見ました。
私も、重いなあ、せつないなと思いながら見ました。
その日のゲストは、新井浩文と、ムロツヨシ。
食い入るように、みてらっしゃいました。
映画だと重いと、片付けるけれど、実際にこういうカップルいるのでしょうね。
趣里さん、伊藤蘭の娘さんと、最初驚きましたが、
だんだんといい役者さんに成長していくのでしょうね。
本での雰囲気と、ぴったりだったのでしょうね。
映画と本。ぴったりというのも、嬉しくなりますね。
ぱすさん
本谷有希子は、奇想天外な小説が多くて、すぐに惹きこまれてしまいます。
人間のおもしろいところ、不思議なところ、どうしようもないところ、そんないちばん人間らしいところを描いているからかも知れませんね~
あさイチ見たかったなあ。見逃しました。
読む前に、予告編を観てしまったので、読みながらもう、登場人物がその役者さんの顔になっていました(笑)
この小説は、映画でないと描けない部分が大きいような気もしていて、観るのが楽しみです♩
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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