東京で、夫と待ち合わせした。
神保町は、会社からも歩ける距離で、何度か待ち合わせたことがある。
駅からは一本外れた通りの交差点で、銀行が目印。銀行のひさしで雨宿りもできる。そしてたいてい、待つのはわたしだ。
雨のなか待ちながらどちらの方向から彼が来るか、考える。前回は、左の道だった。今回は、電車で来るのかタクシーか、ちょっと遠くの駅から歩くのか。地図が読めない女オリンピック金メダリスト有力候補であるわたしには、地図と同じく彼の行動もまったく読めない。
左側の細くて少し暗い道。真ん中の大通りに面した歩道。右の道の方が左よりは太く明るい。考えながら、それぞれの道を眺めていたら、ふらりと頭が揺らぎ目を閉じた。
ゆっくりと目を開けて、考えてみる。
「これからどちらの方向へ、歩いていこうか」
そう考えて見た道は、さっき夫を待ちながら見た道とはがらりと変わって見えた。さっきまで閉じていた入口が開かれ、遠く長く続いていくものとなり、わたしを呼んでいた。
「おまたせ。何食べる?」
夫の登場で、道は静かに「またね」と言い、入口を閉じていく。
わたしも「またね」胸のなかで返して、
「おなか、減った!」
夫に、あいさつ代わりの文句を言う。彼は、右側の道から登場した。
銀行の前に立ち、左側の道。細くて少し淋しい道。
真ん中の歩道。歩く人がいちばん多い道。
右側の車道の前には、信号待ちの立ち止まる人が常に入れ替わって。
待ち合わせて行ったのは『味噌鐵カギロイ』という名の味噌鉄板素焼ノ店。
刺身も出汁巻卵も美味しいんです。
なかでもつくねが絶品でした。今度この味に挑戦したいです。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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