前回本屋大賞で3位に輝いた、一穂ミチの短編集。初めて読む作家だ。
6つの短編のなかには、人の心に根づいた様々な形の歪みが散りばめられていた。それが胸に響くのは、淡々とした静かな、ひとつひとつの言葉を何度も確かめたかのような的確な文章で描かれていたからだ。
たとえば、不妊と夫の裏切りで追い詰めらていく女。父親のモラスハラスメントが日常化している中学生男子。>>「ネオンテトラ」
たとえば、許せない暴力に立ち向かったがために、助けたはずの友に憎悪されることになった高校生男子。血のつながらない父親にレイプされそうになり、騒いだが為に母親に捨てられた女子高生。愛する人の病と優しさに、突き放される女。>>「魔王の帰還」
たとえば、赤ん坊が突然死した、若い母親。突然死した孫の殺人容疑をかけられる祖母。>>「ピクニック」
たとえば、家族の愛という名の束縛に、友達も恋人も作れずにいた女。親の暴力と貧困のなかで育った男。>>「花うた」
たとえば、トランスジェンダーであることを親に受け入れられなかった女の身体をした男。生徒たちへ愛情を注ぎ込みすぎ失敗した過去に、廃人寸前の暮らしをする高校教師。>>「愛を適量」
たとえば、金を盗られ続けた父親を拒んだことを忘れられない男は、親がいない友に歪んだ感情を持ち続けてしまう。>>「式日」
こんなふうに並べると、特殊な人たちに思えるかもしれないけれど、彼らのなかにはわたし自身が抱えている心の傷が、歪みが、波が満ち引きするかのように見え隠れしていた。
表題作のないタイトルに、思う。
ひとりひとりの人生は、たしかに"スモールワールド"だ。
それを集めた6編の物語には、登場する多数の人間の小さな世界が、そこで炙り出されていく心の歪みが、動かしようのないたしかな形で置かれ、リアルに描かれていた。
詳細は、その人にしかわからない。
そんな"スモールワールド"が、世界じゅうに限りなく存在しているのだ。
書評する作家陣がすごい!
第43回吉川英治文学新人賞受賞作。
「魔王の帰還」は、漫画化されているんですね~
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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