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はりねずみが眠るとき

昼寝をしながら本を読み、ビールを空けて料理する日々

『星がひとつほしいとの祈り』

『星がひとつほしいとの祈り』(実業之日本社)は、原田マハの短編集だ。

7編の主人公は、すべて女性。不倫していて、仕事に打ちこんでいて、失恋して、夫に死なれて、それぞれ独り身の女性である。

 

『椿姫』〈東京港区〉

不倫の末、妊娠した20代の香澄。産婦人科で高校生のカップルと出会う。

 

『夜明けまで』〈大分日田〉

「骨をひとかけらだけ、連れて帰って欲しい」母ひとり子ひとりで育ったひかるは、30歳。大女優だった母親の遺言に、行ったこともない田舎町へと旅する。

 

『星がひとつほしいとの祈り』〈松山道後温泉〉

35歳の売れっ子コピーライター、文香。仕事は順風満帆だけれど、好きになるのは家庭を持った男性ばかり。ささくれだった気持ちで出張帰りに寄った道後温泉で、目の見えないマッサージ師の老婆の昔語りを聞くことになる。

 

『寄り道』〈秋田白神山地〉

ハグとナガラの女ふたり旅コンビは、41歳。秋田、白神山地ツアーで、スーツ姿にハイヒールを履いた20代の女性と同行するハメに。このふたりのコンビは、短編集『あなたは、誰かの大切な人』(講談社文庫)にも登場している。

 

『斉唱』〈新潟佐渡〉

梓が女手ひとつで大切に育ててきた娘、唯は、6年生になる頃から感情を表に出さなくなった。話さない。笑わない。怒りも泣きもしない。そんな唯が、トキを見に佐渡へ行きたいと言い出した。藁にもすがる思いで、母子ふたりフェリーに乗るのだった。

 

『長良川』〈岐阜長良川〉

河川の研究者だった夫を亡くして半年。堯子(たかこ)は、娘の麻紀とそのフィアンセ、章吾とともに、夫との思い出の地である長良川を訪れる。

芳雄は、にっこりと笑いかけて言ったのだった。

そのえくぼ、いただきました。

そうなのだ。いまだにあのひと言を思い出すたび、なんだか笑いがこみ上げてくる。まったく私って単純なのよねえ。

いま思い出せば、なんだか馬鹿馬鹿しいくらいだ。あんなひと言に、やられてしまうなんて。もしあのとき、そのえくぼ、いただきました。じゃなくて、そのえくぼ、いただいてもいいですか? と言われていたら。 あの人と結婚しようとは思わなかったかもしれない。

『沈下橋』〈高知四万十川〉

四万十の小料理屋で働くひとり暮らしの多恵は、60歳間近。混み合う店内で観光客の男女の話が聞こえ、歌手の阿藤由愛(ゆめ)が薬物容疑で行方不明だと知る。由愛は、以前義理の母親だった多恵を頼って逃げてくる。

 

この短編集は、手軽にショートトリップできる小説集でもある。

「あ、佐渡なつかしい。四万十川行こうって計画立ててそのままだ。白神山地って、秋田と青森両方に属するんだ。夜明って名前の駅、かっこいい!」

などと、日本各地に心を飛ばせて、楽しんだ。

そして読み終えて、なにかすっきりとした気分になったのは、みんな、一所懸命生きてるなあと感じたからだと思う。

ラスト『沈下橋』で、父親と離婚する継母に向けて由愛が言った言葉「自由になればええ」が、胸に落ちた。

CIMG0522シンプルな表紙の文庫本。7編すべてに英語のタイトルが添えてあります。

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PROFILE

プロフィール
水月

随筆屋。

Webライター。

1962年東京生まれ。

2000年に山梨県北杜市に移住。

2012年から随筆をかき始める。

妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。



『地球の歩き方』北杜・山梨ブログ特派員

 

*このサイトの文章および写真を、無断で使用することを禁じます。

 

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