シリーズ2冊目が刊行され、堀川と松倉のミステリに、晴れて〈図書委員〉シリーズと名がついた。
『本と鍵の季節』に続くのは、長編だった。テーマは「栞と嘘」だ。
舞台は、東京八王子の高校の図書室。謎を解くのは、図書委員の高2男子ふたり、堀川次郎と松倉詩門だ。
『本と鍵の季節』ラストの11月以降、松倉は図書室に顔を出さなくなっていた。
相棒不在となった堀川は、しかたなく1年植田と図書室当番を組むことになっていたが、厳冬期の2月、ようやく松倉がやってきた。
「やあ松倉詩門。ずいぶんな遅刻じゃないか」
ふたり揃ったところで、事件が動き出す。
発端は、返却された本に挟まれた1枚の栞だ。
押し花をラミネート加工した手作りの栞で、その押し花は、猛毒を持つトリカブトの花。返却した女生徒の後ろ姿を見ていたのは、堀川だけだった。
ふたりは騒ぎにならないよう持ち主を探すのだが、ほかにも栞を探している女子がいた。同じ2年のなかでもトップクラスの美少女、瀬野だ。
翌日、理不尽に生徒を叱りつける教師、横瀬が倒れた。
毒を盛られたらしい。
捜査の甲斐あって栞を挟んだ女生徒は見つかり、3年前に作られた”切り札”毒入りの栞が、その後、どうやら秘密裏に広まっていったらしいと判明した。
噂は水面下で学校中に浸透していき、やがて爆発する。
わたしたちには人を殺せる”切り札”が必要だった。
栞を作った「姉妹団」たちは、何をしようとしていたのか。
思い思いの目的はあれど、それをすべて打ち明けるでもなく、堀川、松倉、瀬野は、協力して栞を悪用している”配り手”を探し始めるのだが。
おもしろいのは、シリーズ1作目と同じく、堀川と松倉の掛け合いだ。
「瀬野さんは、二人いるんじゃないか」
「ほう」
「トリカブトを埋めた瀬野さんと、栞を焼いた瀬野さん。今日学校に来ているのはトリカブトを埋めた方で、だから、昨日の話を振られても反応できなかった」
「面白いな、堀川」
さらに松倉は、興に乗る。
「トリカブトを埋めた瀬野が急にお前に話しかけられた場合でも、多少の動揺はあるはずだ。なのに何の反応もなかったのなら、瀬野は三人いる」
「こわい話だ」
「三人いるなら、四人いないという保証はない。もしかしたらこの学校の生徒は、俺とお前以外、みんな瀬野の変装かもしれんぞ」
このふたり、ある部分ではたがいを信頼しあい、だが、ある部分ではたがいの知らない部分に真摯に目を向ける。人を信じやすい堀川と、疑ってかかる松倉は、しかし基本的にはよく似ている。
そこが、このミステリの愉しみどころ、読みどころだといってもいい。
直木賞受賞第一作だったんですね。受賞作『黒牢城』は、夫が読んだのでうちにありますが、時代物苦手で開いていません。
随筆屋。
Webライター。
1962年東京生まれ。
2000年に山梨県北杜市に移住。
2012年から随筆をかき始める。
妻であり、母であり、主婦であること、ひとりの人であることを大切にし、毎日のなかにある些細な出来事に、様々な方向から光をあて、言葉を紡いでいきたいと思っています。
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